第18回 ノート展結果発表

第18回を迎えた「ノート展」。第一線で活躍するクリエイターを審査員に迎え、毎回新たな才能を発掘すべく、イラストレーションの世界を志す人々に広く門戸を開いている誌上コンペだ。今回はギャラリー「ROCKET」を運営するアートディレクター、藤本やすし氏が審査員。約400点の応募作から「挑戦的で、革新的な作品と出会いたい」と語った氏が選んだのは、どんな作品たちだろうか。

※審査の詳細はイラストノート42号本誌を御覧ください。

【大賞】楓 真知子

*作品講評*
「うま」が飛び抜けていいですね。一目見て構図の決め方が達者だと思いましたがやはり圧倒的です。油絵か絵本作家の方なんでしょうか。黒のシルエットや構図、装飾的なあしらいもうまく、すぐにイラストレーション的にも商業美術的にも使えそうです。この方が描く人物や現代的な風俗なども見てみたいです。

【準大賞】竹石美紗子

*作品講評*
よくあるタッチながらほのぼのとした魅力がある。少女風の静かなポエティックさ、僕の好みですよ。構図や擬人化の発想が面白く、繊細で世界観もある。よくまとまっているので意図的に描いているなら充分プロでいけると思います。無機物をどう描くか見てみたいけど、彼女は童画や絵本のほうがいいかもしれませんね。

【準大賞】澤井 航

*作品講評*
好きで楽しんで描いていることがよく伝わります。マティスを意識してるのかな。空間構成やデッサンはまだまだですが、独特な色選びやハチャメチャな魅力があるので、この美意識のまま進んでほしいです。ただもしイラストレーターを目指すなら、3枚に分散した色、奥行き、ストーリーを融合し強度をつける努力は必要です。

【ロケット賞】志佐なおこ

*作品講評*
マチエールや色使いが挑戦的でいいですね。ただ微妙なレトロ感や亀など謎な要素が多い。またこのタッチでキャンバスに描くのは80年代ならアリだけど現代では扱いが相当難しい。でも、だからこそ新鮮に見えたのかなと。質感が見えるギャラリーでは合うと思いますし、30点ほど並べば相当な強度が出ると思います。

【入選】初谷佳名子

*作品講評*
独特の物語をお持ちで楽しい絵だなと感じました。難しい空間の捉え方がしっかり描けているし、技術や間の取り方も面白く、画面にインパクトがある。3枚を総合して初めて個性が見えてくる感じがします。ただイラストレーターを職業にしたいのであれば、タッチや世界観は少し考える必要はあると思います。

【入選】松田 学

*作品講評*
プロの作品ですね。「鷹匠」の構図もものすごくうまい。トーンやタッチに信念があり、帽子や洋服の描き分けも確実。版画のタッチで目を白抜きでキリッとさせるなど、ご自身のスタイルがよく伝わります。ただ対象との距離感が全部同じで単調に見えるのが惜しい。うまい人にはさらに上を見せてほしいんですよね。

【入選】南 景太

*作品講評*
最後まで迷ったんですが、時代の空気が読めない点が気になったのと、5枚全部が似た印象に見えたので入選にしました。ただ人物のサイズを揃えて背景色で描きわけるなど真面目だし、中世風の世界観はよく出ている。すごく描ける上手な方でしょうから、異なるモチーフや違うタッチの作品を見てみたいですね。

【入選】タニモト大作

*作品講評*
建築業の方なんですね。現代美術っぽいコラージュで独特の空間構成が職業を裏づけている感じがします。タブローとしては面白いし、楽しんでコラージュしているのはよく伝わる作品ですが、イラストレーションとは少し違うよね。とはいえコラージュ画の異質さが際だって見えたので今回選びました。

【入選】平井豊果

*作品講評*
中世風の世界で展開する作品です。描かれる場面が楽しそうで物語を感じる点が好きなので選びました。ただ色数を抑えた理由や人をこれだけ並べた理由が今一つ見えてこない。自分の描いたものの意図を伝えようとする意識を持つことが必要だと思います。また20点は多すぎるので、もう少し絞って送るべきですね。

【編集部賞】花田栄治

*作品講評*
迷いのない色使いが目を惹きました。特別な補色でもないのに目立たせる技術や強度でこれしかないと。キャラクターが訴えかけるものが強く「目線が合った」んです。駅貼りポスターなどコピーを入れた広告としても成立しそう。欲を言えば、多少の破綻があったほうがより忘れられない作品になると思います。

●審査総評●

「挑戦的か、革新的か」を基準に、今まで見たことがないようなものかつ強い表現の作品を選びました。僕は技術的には下手でも楽しんで描いた様子がわかる作品のほうがいいと思います。またもし仕事を発注するなら、できればその作家さんの新たな扉が開けるような挑戦をさせてあげたい。その意味でも、今回の受賞作は可能性重視で選びました。イラストレーターには厳しい時代ですが、必要とされる場を模索するやり甲斐や楽しさは充分あります。自分なりの新たな手法を見つけてもらいたいですね。

■審査員PROFILE

アートディレクター
藤本やすし氏

1983年デザイン会社「CAP」 設立。アートディレクターとして現在、表参道ヒルズ館内クリエイティブワーク、雑誌『VOUGE』『BRUTUS』『Casa BRUTUS』を手掛ける。また原宿と表参道でギャラリー「ROCKET」を運営。

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