特別公募 秋のノート展結果発表

イラストレーションを描く方々に向け広く門戸を開いている『イラストノート』誌上コンペ「ノート展」。新たな才能との出会いの機会を増やすべく、特別公募「秋のノート展」として初の開催となった今回。装丁画や絵本など第一線で活躍されている大塚いちお氏を審査員に迎え、受賞作を選出した。多くの応募作の中から大塚氏が選び抜いた作品を講評とともに紹介していこう。

【大賞】山川はるか

*作品講評*
懐かしい絵の雰囲気と新鮮な今っぽさが絶妙なバランスで描かれています。一見するとざっくりとした印象ですが、こういったビビッドな強い発色で描こうとすると、色がにごったり雰囲気がくずれたりといったことで、ねらいを外しがちなんです。大胆に描くための確かな技術がありますし、洋服の柄など細かなところにセンスも感じられます。ホットドッグとスケートシューズを似せているところにユーモアもある。頭の部分が切れそうになりながら入っていたり、手足の赤やピンク系の色味を使っているのに気持ち悪くなる直前でちゃんと止まっていたりと、どちらの絵もぎりぎりで面白いですよね。これは、たまたま描けた一点じゃないぞ、ということで大賞に選びました。

【準大賞】橋村実里

*作品講評*
画力や構成力、デザイン力などが整っていて、審査をしているこの短時間でもちゃんと納得させてくれるだけの要素が多くありました。どの要素をとっても安定した力できちんとまとまっているし、見せるべきポイントが自分でうまく把握できているので、この方は外せないなと思いましたね。かわいくてほのぼのとしている中に、ただのファッションではない、ひとつの世界観をしっかりと感じさせる作品になっています。

【準大賞】スズキタカノリ

*作品講評*
自然体でモチーフに向かえています。なんでもない日常のスケッチなんだけど、覗き見をしているような、少しくすぐられるようなところ。そういった空気感や見せ方がすごくいいなと思いました。タブレット(iPad)を使うことでスケッチブックよりも気軽に描けているんでしょうね。街で出会ったものや思い浮かんだものだけでなく、見ようと思っても見られない、もっとドキドキするようなモチーフをこのタッチでさらりと描いていければ、さらに面白いものが生まれるだろうなと思いました。

【入賞】田室綾乃

*作品講評*
技術力の高い描き手だと思います。作品としてまとまっていたり、さらりとした質感だったりといった応募作が多い中で、これだけしっかりと彫り込み、描き込んでいる点でも目を引きました。こうした木を彫ったり重ねたりといった手法で力強い描き方をしていると、作者だけが楽しんでいてこちらには伝わらないといったケースが多いんです。くすんだ抑え目のトーンとこのモチーフによって、描こうとしている世界観と合致している。とてもいい作品ですね。

【入賞】なおやん

*作品講評*
かなり攻めている作品ですね。なんともいえない表情や、なぜか模様になっている髪の毛、左右のサイズが違うサングラスといった不安定な描き方の一方で、ベストの部分にはしっかりと細かく星を描き込んでいて……大げさですが、宇宙を感じる(笑)。一枚の平べったい紙にただ顔を描いているだけなのに、底知れぬ広がりと強さを感じるんです。人間的に面白いことを考えている人なんだろうなと思うので、いろんな手法を使って、もっともっと攻めまくった作品を期待しています。

【入賞】沖野 愛

*作品講評*
細かく描き込むことで生活感や人物たちの状況を伝えていて、賞賛すべき作品です。どこか一部分だけを切り取っても独立した作品として成立する画力もありますし、この世界の一人一人をじっと見てみたくなりますね。これだけの群衆を描くのは本当に大変なんですよ。好きじゃないと描き続けられないですし、なおかつ緻密で明確な設計図がないといけない。今回は一作品のみの応募だったので、できればもういくつか見てみたい。倍の大きさのものなどあったら、圧巻だと思いました。

【入賞】上杉あき

*作品講評*
奇妙な動物と生身の人間というバランス感がいいですね。飄々としたユーモラスな雰囲気がじわじわと面白い。神経質に描き込みすぎることなく、止めどころが抑えられているいい作品です。ちゃんと絵具で描いている気持ちよさもあり、準大賞でもおかしくない作品だと思っています。ただ、メルヘンな雰囲気にはどこか見たことのあるような印象を受けたので、最後の最後で推し切れませんでした。描こうとしている世界観やシチュエーション次第で、もっと面白い作家になれると思います。

【入賞】矢野恵司

*作品講評*
審査会場に入って最初にぱっと見ただけで強く残りました。主張と発信力は群を抜いています。Photoshopでつくっていてもデジタルくささがなく、細かいテクスチャできっちり描けていますね。印象に残るだけでなく、作品としての完成度も高い。怪しさもあって、どことなく和っぽさもある。フォーカスがボケているような効果も、柔らかくていいですね。こういった味のある独自のタッチのポートレートをシリーズ化して、彼ならではの描き方を突き詰められたら面白いでしょうね。続きが見てみたい作家です。

●審査総評●

技術的にも安定していて一定のレベルで上手いと感じる作品が多く、審査が難しかったです。本来ならもっと面白いものを生み出せるのに、仕事になるような絵とはどんなものだろうと真面目に考えすぎてしまっている、きれいに見せようと表現したいダイナミズムをオブラートに包んでしまっている作家が多くなっているのかなという印象でした。せっかくの公募の機会なので、もっと攻めたもの、その作者ならではのものを出してくれても面白いのにな、と思いました。

■審査員PROFILE

大塚いちお 氏

1968年新潟県上越市生まれ。イラストレーターとして、広告やパッケージ、出版など数多くの仕事をこなし、アートディレクターとして、広告や、テレビ番組のキャラクターデザイン・衣装・セット・タイトルロゴなど、番組全体のデザインに携わる。担当番組にNHK Eテレ「みいつけた!」 など。Jリーグ川崎フロンターレのファミリーアートディレクターとして、グッズやイベント関係のデザインを担当し、2015年シーズンユニフォームをデザイン。2005年東京ADC賞受賞、その他カンヌライオンズやD&AD awardsなど海外の受賞も多数。東京造形大学特任教授。

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