第21回 ノート展結果発表

第21回ノート展審査員はアートディレクターの色部義昭氏。美術館のアートワークを手掛けることも多く、日常的にアートに触れる機会の多い色部氏の作品選定ポイントは「コミュニケーション力」。イラストレーションの可能性を感じさせてくれた入賞作品を紹介する。

【大賞】萩結

*作品講評*
最初から気になっていた作品です。水彩絵具で描かれた独特の世界観に、見れば見るほど引き込まれますね。「先に行って待ってるね」というタイトルにもセンスを感じました。一度見て、どんな情景なのかが気になり、タイトルを見ることでそれが補完される感覚です。何か人に想像させる空気を持たれていると思うので、スピードコミュニケーションというよりは、エッセイの挿絵など、じわじわとストーリーの魅力を伝えていく状況において機能するイラストレーションだと思います。(色部)

【準大賞】歩 乃絵

*作品講評*
一つひとつのタッチから描いている息遣いを感じられる、注目せずにはいられない魅力に満ちた作品だと思います。こういった作品を見ると、絵でしか表現できない世界観がある人だなと感じます。小手先の表現に頼ることなく、「森」「河口」といったそれぞれのテーマに対してどういう風に筆をおいていけばいいのかをじっくりと考えてから描かれている気がします。根気がいる作品だと思いますが、描く人に心の乱れがないことも感じますね。見ていて目が心地よいです。(色部)

【準大賞】川央ヒロコ

*作品講評*
「東京淡景」というタイトルと5点の作品全体の構成力が素晴らしいです。どちらかというと今風のイラストレーションタッチで既視感はあるのですが、何気ない日常風景の切り取り方にセンスを感じますね。もしかすると、あえて表情はつくらなくてもよかったかもしれませんね。個人的にはレジャーシートの作品が好きです。アンリ・マティス風に描かれたような現代のユートピアのような世界感に惹かれました。(色部)

【入選】でん

*作品講評*
最初からいい意味で目立っていましたね。すでにプロとして活躍されている方だと思いますが、技術的にもかなり完成されていますし、色使いのセンスもとても良いです。「とある昼下がり」「サマータイム」といった謎めいたタイトルも気になりました。描き手のトロピカルな気分が伝わってきます(笑)。欲を言えばもっとぶっ飛んだ展開というか、意外性のある表現も見てみたいですね。作品世界がもっと面白くなるような気がします。(色部)

【入選】領家明子

*作品講評*
上位にするかとても迷いました。画材の組み合わせ方や表現力も卓越していますし、2文字のタイトルと絵の関係性にもセンスを感じます。静止した絵なのに動きを感じられるのもいいですね。個人的には伝えたいフィーリングよりも、少し表現がメインになりすぎている印象を受けました。構図にヌケをつくるなど、もう一捻りあれば大賞をとれたかもしれません。構図も絵に息吹を吹き込む要素だと思うので、この画力を活かしてもっと伝えたいことが伝わるような作品を描き続けて欲しいです。(色部)

【入選】山田貴美子

*作品講評*
「茶室」という日本の様式のなかで少女たちが戯れているという組み合わせが面白いです。コラージュ的なセンスが抜群にある方だと思いますね。入り組んだ世界なんだけど、どこかSF的な感じもするという。裏面にもすべて謎の模様が描かれていますし、「意外性」の感覚が心地よい。ただ、少女たちのキャラクター性が強すぎることで、全体の面白さが弱くなっている気もします。顔の表情に頼らずにテーマをシンプルに表現するともっと良くなると思います。(色部)

【入選】サッサエリコ

*作品講評*
この作品には不思議な「間」があって、人の足を止めさせる魅力を感じました。二羽のスズメの位置、ブロック塀の壁の塗り残しのような穴、余白のすべてに表情がある。僕自身がデザインするときに、余白を意識しながら中を考えるというやり方をしているので、そういう感覚にシンパシーを覚えたのかもしれません。ぜひこの作品の世界観でシリーズ化してほしいですね。連作にすることで面白さがもっと増すと思います。(色部)

【入選】Mayumi Sun

*作品講評*
この作品は目がとてもいいですね。言いたいことが明確でいいなと思いました。特に共感を誘うのがこの状況。最近のリモートワークで、まさに僕が飼っている黒猫が同じことをしてくるんです(笑)。iPadを見ているとわざとそこに座る。さらには8歳の娘がこの女性と同じしぐさをしてきます。解釈する側の問題でもあるかもしれませんが、イラストレーションは時代の空気を感じ取るものだと思うので、共感覚に訴える内容など、心を動かすテーマ選びも大切だと思います。(色部)

【編集部賞】OIKAWA MAYUKI

*作品講評*
レトロなムードの中にある斬新さに目を引かれました。人物表現は70年代を彷彿とさせますが、構図や色使いは無駄を排除し、整理されたグラフィックデザインの力量を感じます。ファッション誌の挿絵や映画のポスターなど新たなイメージを創り出したい媒体との相性がとても良いと思います。(三嶋)

●審査総評●

いわゆる即効性のある強い作品というよりも、嗜好性の高い作品が多かった印象です。あとからじわじわ伝わってくるもの、ずっと眺めていたくなるものがいくつかあったので、選定は難しくもあり面白くもありました。イラストレーションを挿絵という解釈で見れば立ち位置としては正しいのかもしれませんが、イラストで伝えたいことを言い切る!という作品ももっと見たかったです。僕はデザインするときに「素材性」をすごく大事にしているのですが、使う文字や色といった素材一つひとつに意味があります。それは建築で言えば木を選ぶかコンクリートを選ぶかというくらいの情報の違いがある。素材が伝える情報の重さに敏感でいること、できあがったものを客観的に見るという視点を大事にして制作を続けていって欲しいです。

■審査員PROFILE

色部義昭 氏

グラフィックデザイナー/アートディレクター。株式会社日本デザインセンター取締役。1974年千葉県生まれ。東京藝術大学大学院修士課程修了後、株式会社日本デザインセンターに入社。原デザイン研究所の勤務を経て、2011年より色部デザイン研究所を主宰。東京藝術大学非常勤講師。主な仕事にOsaka MetroのCI、国立公園ブランディング、草間彌生美術館・市原湖畔美術館・富山県美術館・天理駅前広場Cofufunのサイン計画など、グラフィックデザインをベースに平面から立体、空間まで幅広くデザインを展開。東京ADC会員、JAGDA会員。
https://irobe.ndc.co.jp/

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